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武によって変わる隼人が好き。
↓山獄
俺は寝相が悪かった。
それはもう、ひどいものだった。
枕はいつもベッドから落ちていたし、布団も体を覆っていてくれなかった(だからすぐ腹を壊した)。
寝る前に読んだ本は、せっかく栞を挟んだというのに、抜けていることもあった。
たまに、俺自身もベッドから落ちた。床に頭をぶつけて、傷を作って学校に行くと十代目が悲しそうな顔をなするから、ベッドから落ちることは極力避けたかった。でも落ちるのだ。落ちて、目が覚めて、自己嫌悪に陥るのだ。
落ちなくなったのはいつからだろうか。
寝相が悪かったのだ。枕はなくなって、布団も役に立たなくて、本はページが折れてしまうのだった。
全部、こいつが来てから変わった。
こいつがぎゅうぎゅうに俺を抱き締めるから身動きがとれなくなった。
部活疲れなのか、寝たら身動き一つしないこいつが、俺をベッドの壁側に寝かすから、寝転がってもベッドから落ちなくなった。
シングルベッドに二人で寝るのは不快適極まりないが、二人で寝る習慣がついてしまい一人でもベッドの端に寝るようになってしまった。
それに気付いたのは十代目の言葉でだった。
落ちなくなった??と聞かれた。嬉しそうな笑みを添えて言うから、俺もつられて笑った。
笑いながら俺は理由を考えてた。
こういう些細な変化がこいつによってもたらされていることを、たまに思い知らされる。
俺は石のようになりたかったんだ。ぶれない、流されない。でも、こいつといると流されてばかりだ。
それはまさに、侵食されているような気分だった。こいつに因るものが俺に染み込んでいく。今、何パーセントがこいつで占められている?そんなことばかり気になって仕方がなかった。
「運搬、侵食、堆積」
「運搬、侵食、堆積」
「運搬、侵食、堆積」
この繰り返し。
まるで川だ。
俺は、削られて、削られて、最終的に目に見えないほどの小石になって沈んでいくのだ。
獄寺君は削られてるの?十代目は俺の言葉を繰り返した。そして、そっか、そうかもね。と言葉を続けた。
ガラス、って、流されて削られて磨かれて最終的に宝石みたいになるじゃない?小さいころ、川辺とか、海とかで見つけて、嬉しくてさ。たくさん集めた覚えがあるよ。
俺の淹れたコーヒーをさも美味そうに飲んでくださっている十代目が、ここ十年で身につけたらしい人の悪い笑みを浮かべて、
獄寺君、最近、更に綺麗になった。だったら、それも山本のおかげ、かな。
と、おっしゃるから、俺は何も言えなくなってしまった。
そう。まるで、川だ。
太陽に照らされてキラキラ光る。
なんだこれ。